名古屋大学 Nature論文撤回 その1

研究不正

こんばんは。はーどこあです。
先日ニュースになった名古屋大学のNature撤回の件、どういった点に疑義があったのか論文にアクセスし内容を調べてみました。

名古屋大学の伊丹教授らの論文「リビング縮環π拡張重合によるグラフェンナノリボン合成」は、2019年6月に科学誌『Nature』に掲載されましたが、使用したデータに疑義があることのことで、2020年11月25日付で当該論文は取り下げられています。

当該論文を一読した後、Natureに掲載された撤回文を読んでみたのですが、撤回文の意味が良くわかりません。
原文には、”Specifically, the exact molecular weights (m/z calculated for [M] and [M + Ag]) of GNRs 2 (Extended Data Fig. 1), 7 (Extended Data Fig. 6) and 8 (Extended Data Fig. 7) were calculated wrongly on the basis of the assumption that all carbon atoms in these GNRs were ++12C (monoisotopic).”とあり、日本語に直すと、GNRs2, 7,8 の精密質量は、GNRsの炭素原子がすべて12C由来の炭素であるとの間違った前提のもとに計算した、と訳すことができます.しかしながら、そもそも精密質量は天然存在比が最も大きい同位体の組み合わせで計算しますので、すべて12C由来の炭素で計算しても何ら問題ない訳です。なので撤回の理由になりません。それ以前にexact molecular weightsという用語は不適切でexact massと記載すべきです。

続いて、撤回文には”In all GNRs, the exact mass peaks should appear approximately 6 to 9 mass units higher.”とあり、こちらは、GNRsにおいて精密質量は6-9原子質量単位高く出るべき、と訳すことができます。先述のように精密質量は天然存在比が最も大きい同位体の組み合わせで計算しますので、精密質量が高くなることもあり得ません。同位体(13C)が存在する分、最も強度が高いピークの質量はずれる訳ですが、著者らはそれと勘違いしているように見えます。

Natureにも、名古屋大学にも指摘する人はいなかったんでしょうか。
名古屋大学の記事では、「当該データの疑義について、研究活動上の不正行為に当たるか否かの調査を行っており、調査が終了しだい、適切に対応する予定です。」とありますが、ちゃんと調査して下さいね?

次回に続きます。


4 件のコメント

  • 興味深く読まさせて頂きました。

    >先述のように精密質量は天然存在比が最も大きい同位体の組み合わせで計算しますので、精密質量が高くなることもあり得ません。同位体(13C)が存在する分、最も強度が高いピークの質量はずれる訳ですが、著者らはそれと勘違いしているように見えます。

    炭素数が大きくなると、12Cだけを持つ分子は殆ど存在しなくなりますので、HR-MSを測定する際は一般的に最も強度が高いピークで計算すると思うのですが、いかがでしょうか。

    実際に計算してみると、12Cの存在比を98.9%、13Cの存在比を1.1%として、炭素が700個ある分子(C700)を考えたとき、全てが12Cの分子は0.04%しかいません。一方、C700で一番強度が強いのは13Cが7つのもの(14.5%)で、全てが12Cのものより300倍存在することになります。したがって、実際に測定する際には全てが12Cの分子に由来するシグナルは殆ど検出されないと思います。

    • 横から失礼します。おおよそ同意します。
      質量分析において、同位体ピークのうち一番左(天然同位体のみのピーク)が最も強度が大きくなるという単純な思い込みに基づいてデータが捏造されたのでないかと推察します。おそらく、これまで扱ってきた化合物がそのような単純な分布になる低分子化合物ばかりだったからではないでしょうか。高分子化合物の質量分析では同位体分布がどんどん複雑になっていきますので、exact massだけでなくその同位体分布も計算値と良い一致を示しているかを精査するのが普通だと思います。
      そもそも、NMRがあまり役に立たなくなるこのような高分子化合物では、質量分析がしばしば構造決定の最後の砦になります。常識的に考えて、最終目標であったGNRsの構造を決めるとなれば、計算値とにらめっこしながら質量分析スペクトルを一つ一つ慎重に見ていくのが普通だと思うのですが・・・。
      捏造があったとすればそれ自体問題です。しかし、これは無知に基づく極めて杜撰な捏造に見えるので、一流の研究グループの責任著者が二人ともこれを見抜けなかったことのほうが個人的には衝撃です。生データを見ていなかったのか、質量分析の基本的な知識が欠落していたのかはわかりませんが、どっちにしても論外だと思います。

      • 「同位体ピークのうち一番左(天然同位体のみのピーク)」は「同位体ピークのうち一番左(天然存在比が大きい同位体のみのピーク)」の誤りです。すみません。

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